三族物語

• ❑  昔あるところに、ハリネズミ族とキツネ族、そして王族の3つの部族が共に住む国があった。この国がいつ成立したのかは不明だが、混沌として、ひとつの国としてのかたまりがなかった頃、後から入ってきた今の王族が、ふたつの部族をひとつにまとめあげたのが、この国の初まりであったらしい。

• ❑  キツネ族は、物の商いを生業とする人々が多く、馬車や船の移動により、各地の珍しいものや貴重な物を他の地域で販売し、日々の糧を得ていた。反面、ハリネズミ族は、農業を主体とし、一カ所に定住しているものがほとんどであった。二つの部族は、それらの仕事に長らく従事しているうちに、民族としての特徴として、キツネ族のことを、「動きし者」として、そしてハリネズミ族のことを、「止まりし者」として呼ばれ、それらがそれぞれの民族の特徴となっていた。

• ❑  一定の習慣がやがて一つの人格を形成すると言われる通り、二つの部族の性格は全く異なる様になり、キツネ族は好奇心あふれる活動を好み、発明や芸術活動に従事するものが多いのに対し、、ハリネズミ族は一カ所に定住する活動の多い、宮廷生活を支える事務的な作業や工具などを創り出す工房で働くものが多かった。

• ❑  王族は、そんな二つの性格の全く異なる部族の間で生じやすい摩擦を和らげ、仲介する立場にあり、両部族からは尊厳のまなざしで見られていた。そしてその証しとして、両部族は日々の王族の生活を支える様々な貢ぎ物を王族に献上していた。

• ❑  「動きし者」は他の地域からモノを持ち帰るだけでなく、同時に幾百のお話を持ち帰り、故郷にいる両部族の「小さき者」の好奇心をかき立て、成長の糧として、次の代の活動の源泉となっていた。つまり「動きし者」の活動には、初め小さい目立たない変化を、そしてそれが繰り返される内に普通の波を、更にやがて大きな波をもたらすような影響力があったのだ。

• ❑  一つの国として形が完成して長い時が過ぎた。そして、人々も年老い、そして小さき者も年を取り、やがて一つの代から次の代に時代が変わりつつあった。そして、それを象徴する初代の王様が、この世を去り、この国も次の時代に移って行き、新たな王様が生まれた。

• ❑  新たに王様となった彼は、恐れた。そう、失う事を。変化を恐れ、その変化を止める道を選択し、「動きし者」の動きを止める方向に歩んでいた。が、王様は知らなかった。その止めようとしていたものの中には、単に「動きし者」の好奇心だけでなく、「止まりし者」の活動の源泉だった情熱も含まれていた。何故なら、何が許され、何が許されないかを決めるのは、王様だけであり、人々がそこに入り込む余地が無くなったからだ。「動きし者」は行動を止め、「止まりし者」は自ら考える事を止めた。

• ❑  恐れは怒りにつながり、怒りは憎悪につながり、憎悪は苦しみにつながる。今や、王様の恐れは、国民の苦しみを生み出すようになり、荒れた国になってしまった。そう、あの勇者が現れ、再びこの国を輝く土地にするまでは。

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