“もみの木”, ハンス・クリスチャン・アンデルセン (著)/スベン・オットー (イラスト)
切ないお話である。外界にのみ目を向けたもみの木は、お日さまのひかりや風が言う「若さ」の意味するところを知らず、まだ見ぬ世界に思いをはせて過ごしていた。
そしてやがて森から切り出されてクリスマスツリーとして飾られ、その絶頂期を迎えるが、翌日は納屋の中。初めはまだ希望を持って過ごすが、ネズミたちに自分の思い出を語るうちに、それまで気づかなかった「若さ」の意味を知ることになり、最期に焚き木として消えて行く。
一瞬の積み重ねが生活になり、そしてその積み重ねが人生になる。自分の内なる「自分」と対話する事なく、外側にいる「他人」との会話の中で、人生の羅針盤を決め続ける時、周りが満足する様なあり方は実現できるかもしれない。
しかし、そんな風に長く航海をすればする程、本来自分が思い描いていた「自分」から大きくずれ、気づいた時には埋めきれないギャップの前で呆然として、「できるときに、もっと楽しんでおけばよかった。おしまい、おしまい!」と思わず嘆くのではなかろうか、ちょうど、このもみの木の様に。