「お客様は電気ドリルが欲しいんじゃない、穴が欲しいんだ」
「電気ドリル」事業の創始者は、血のにじむ様な思いをして消費者の「穴」が欲しいという課題を「電気ドリル」という商品で解決し、大きな事業体にまで発展させた。時代が経るにつれ、消費者の「穴」へのニーズが徐々に変容し、多様なアプローチの仕方を求める様になり、他の道具へのシフトが起きてきた。それに対して「電気ドリル」協会は、他の道具の「穴」を開けるプロセスに危険性があり、それを検証する社会的仕組みが必要だと政府に働きかけ、許認可制度を新たに設けた。(注)
お客様はあくまでも顧客価値(=穴)を求め、それを効果的、効率的に実現する為の商品(=電気ドリル)を購入している訳である。お客様が見るのは、提供価値ではなく、顧客価値である。ところが、企業側はひたすら自社の提供価値を見続け、ベンチマーキング的に改善を図ろうとする。短期的には両者間で大きなギャップは生じないであろう。が、技術革新や生活様式の変化、そして人々の意識や価値観が変わるにつれ、業界全体の売上伸び率の伸び悩みや利益率の低下などが生じ始め、顧客価値と提供価値との間のズレは大きくなる。そして創業者が消費者の思いを汲み上げて事業を発展させたのに対し、その後継者は身内に目を向け続け、ますます消費者との距離感を広げていく。
「何が消費者の求める顧客価値か」を考え続ける事が持続可能な事業活動の秘訣ではなかろうか。
(注.もちろん、ここでの「電気ドリル」はたとえ話の一例で取り上げたに過ぎず、製品そのものに意味がある訳ではない。)