“せんりのくつ”
大石 真 (著), 若菜 珪
食べるのに困った母親によって、山に置き去りにされた子供たち三人は、互いに助け合いながら山小屋に向かうが、そこは鬼の棲む家。同居している「ばあさま」に助けられ、逃げ出す途中で、それを追って来て、鬼から千里を飛ぶことのできる靴をはいたまま、一休みしているところに遭遇してしまう。そして兄弟は勇気を出して、その靴を盗み出し、無事母親の元に帰り、幸せに暮らしました。という所でこの本は終わる。
最初読んだ時、残酷な物語だなと感じた。どう見ても、命を奪いかねない山への置き去りをしながら、「かあさんは ・・・・まいにち、なきくらしている」。三人が帰った後、「しあわせに くらした」。
どうも今の尺度では理解できない。しかし児童福祉法が出来たのも、戦後の昭和22年のこと。その前は、子供は時に人身売買の様な形で「モノ」として扱われた側面もある。だから、生活が苦しければ、このような事が起きても不思議はないし、助かる可能性を残して捨てた事はこの時には、情がある行為だったのかもしれない。
時代背景により、尺度が変わり、同じ行為でもプラスになったり、マイナスになったりする。これからも更に大きく、「常識」の規尺が伸び縮みしていくだろう。しかし少なくとも、先人からの積み重ねの努力によりようやく到達できた「命」への思いがマイナスの方向にならないように強く願いたい。