“ぼく いえでするんだい”
末崎 茂樹 (イラスト)
にしむら ひろみ(文)
てっちゃんはいま、すごくおこっている。ママとけんかしたから。だからいまから、いえでする。さんりんしゃにのって。ぎこぎこととおくまでいく。とちゅう、おじさんやおばさんたちがはなしかけてきた。はじめはへいきだったんだ。でも、ずいぶんとおくまできて、こわくなった。それで・・・やはりかえることにした。おふろはパパと、はいった。やっぱりおうちがいいや。
小さいながらも、自分の大事にしているもの(おもちゃ)をしっかりリュックに積み込んで、家を離れる彼。そこに人の巣立ちの原点を見た。小さくても、幼くても、そこに宿る悩みに変わりはない。ひとりで心細さを抑えながらも、ひたむきに三輪車をこいでいる時にかけられる周りからの暖かい言葉の数々。そんな周りにも関わらず、誰にも頼らず、自らの力で行こうとする意志の強さのあまり、素っ気ない態度をとる。だが、最後には、おばさんの「かえれなくなっちゃうよ」との言葉を聞き、おうちに急いで帰って行った。
彼の当初の自律行為は失敗に終わったが、周りの暖かい言葉で支えられて、自らの判断で帰って行った。自律とは違い、自立するという事は、「誰にも甘えず、自らする」という部分と「甘えて、助けてもらう」部分の見極めが状況に応じて、きちんとできるという事である。この判断力がなければ、変化する状況への適切な行動をとる事は難しい。彼の家出は、巣立ちの第一歩として成功したのである。