みずうみに消えた村
絵本は小さい子が読むものと思われがちだが、内容的には大人が読む事を意識して書かれているのかなと感じる絵本が数多くある。この本もその中のひとつ。今はダムの底に消えてしまった思い出の村で小さい頃過ごした日々の事が描写されている。
季節ごとに見せる景色の中で起きた様々な出来事、学校までの行き帰り、友達と一緒にしたつり、夜汽車を見ながらのカエデの木の下での睡眠、ホタル等、走馬灯のように作者は語っていく。しかしそんな日も、ダムの工事が発表される日を境に、大きく変わる。工事がどんどん行われ、やがて思い出の村も水の底へ沈む。そしてただ幼き頃過ごした思い出の声だけが響いていく。
淡々と語るその内容が、逆に失ったものへの寂寥の思いが一層強く感じさせる。今、老人ホーム等で回想療法と呼ばれる痴ほう老人の認知症の進行を遅らせさせる方法があるそうだ。社会とのつながりを失い、生きる意欲をかき立てる事が難しい人には、情感が付随する小さき頃の思い出の中につかることで、社会や人々とのつながりを創っていこうとする試みなのだろう。
年を経てもなお、自らの世界を切り開いていこうとする人もこの社会には存在する。そんな人の目には、時を超越したより豊かな夢とそれを実現していく為に必要な活動風景が写っているのだろう。自らを癒す為の思い出と自らの未来を切り開く為の夢、そのどちらも発展的な自分を支えていくのに必要な素材なのであろう。